「見ててみ、あの女を見るんはもう5回目や」洒落にならない怖い話

はやし

洒落怖「見ててみ あの女を見るんはもう5回目や」

子供をからかって遊ぶ父親の口癖は「見ててみ」だった。

それがあんな恐ろしいことになるとは――

うちの父親は陽気な人である。

ぱっと見、裏稼業の人も引くような強面の巨漢、しかも柔道有段者で恐ろしげなイメージを持つ人ではあるが、

中身はなんてことはない、ただの陽気なおっさんである。

怒ると怖いが。

父は昔から霊感があるらしく、世の中の常識から外れた怪現象を目撃する事が多々あった。

そして、私自身にもそんな父の特異体質は遺伝したらしく、

昔から不思議な物を見る事がよくあった。

私が小さい頃から、父は自分の子供をからかって遊ぶ事が好きだった。

焼肉屋にご飯を食べに行くと必ず。

「ほら、窓の外見ててみ。

今からそこを、これからさばかれる牛が逃げていきよるから」

と言って窓の外を指差した。

小さな私は当然のように父の言葉を信じ、

わくわくしながら窓の向こうを見続けるのだが、

牛が逃げていく様を見る事は一度もなかった。

またある時は、回転すし屋の水槽でゆうゆうと泳ぐブリを見て、小さな弟にこう言った。

「よう見てみ、あの魚な、あの尻尾の所から電池入れるんやで」

「電動?」という私のツッコミに、

カウンターの向こうで働いていた職人さんが堪え切れずに噴出した。

ある日、そんな陽気な父と夜中にドライブする機会があった。

用事で帰りが遅くなり、時刻は既に午前1時を過ぎていた。

県道を時速90kmで飛ばす車の中で、特に会話もなくラジオを聴いていたら、父が突然口を開いた。

「見ててみ、今から女が飛び降りるから 」

父の言葉についていけず、私が「は?」と思っていると、

家の近くにある、それなりに大きな川に架かった橋に車が差し掛かった。

進行方向左手の歩道に人影が見える。

今は距離が遠くてよく分からないが、車はどんどん人影に近づいていく。

肩にあたるぐらいの髪の長さで、茶色いスカートを穿いた女の人だった。

どんどん車が近づいていく。

もう顔もはっきりわかる。

「あ」

一瞬だった。

女の人は軽い動きで橋の欄干を超えて、階段を下りる見たいな動きで橋の下に消えた。

「っ父さん」

私はパニックに陥り、運転席に座る父の肩をバンバン叩いて車を停めるように懇願した。

今考えれば危ない事である。

しかし投身自サツを目撃してしまったのだ。

それどころではない。

早く救急車を呼ばなければ。

しかし父は私の猛攻を無視して、走り続けながら落ち着けと言う。

「落ち着けるわけ無いやろ早く救急車呼ばなあかんやん」

「呼んでも意味無いで、アレはもうしんでるから」

「そんなん分からんやんかまだ生きてるかも知らんやろ?」

「しんでるよ、俺があの女を見るんはもう5回目やからな」

父の言っている意味がわからず、思わず私の動きが止まる。

「もうずいぶん前にしんでるんや。

でもそれに気づいてない」

そこでやっと気づいた。

さっき見た女の人は、あちら側のモノだったのだ。

「自サツした人間っていうのは、自分から死にに行くくせに、

本能のどこかでまだ自分は生きてるんじゃないだろうかと思う事があるらしいわ。

そんな思いがああいう形で残って、『また失敗した、早くしななければ』って同じ事を繰り返すんやって」

何回も何回も自分の死を知らずに、

同じ自サツを繰り返す霊、さっき見たモノもそういう類だろう。

悲しいなぁ…と父は小さな声で言った。

曲がり角を曲がると、もう橋は見えない。

変わりに、見慣れた近所の町並みが窓の外を流れていく。

以来、昼でもできるだけその橋は利用しないようになった。

夜なら尚更だ。

今でも彼女は、あの場所で飛び降り続けているのだろうか。

( 引用元 : http://www.oumaga-times.com/archives/1026181376.html )

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