私(男)が大学生のとき、一つ下の妹と同じ大学で同じオカルトサークルで活動していた。
妹とはほとんど別行動をしていたのですが、ある日同じサークルの我々の先輩にあたる人が、
ある事故をきっかけに特殊な能力を身につけた、という女性がいるという噂を聞きつけ、その
取材に妹を連れて行こうと誘っていた。妹は先輩の様子から、単にその女性をからかうつもり
で取材しようとしていることが気になっていたこともあり、私に同行を求めてきた。
取材の日、我々兄妹と先輩、先輩の恋人の四人で女性の家に伺った。なぜ、所在が分かった
かというと、そもそも女性自身が、あるネット掲示板で噂を発信していて、先輩とは掲示板を
通じて取材の段取りを打ち合わせていたのだ。
女性はその事故が原因で顔に大やけどを負っていて、事情が分かっていた先輩以外の三人は一目
見たときに息を飲んだ。家には昼間ということもあり、ご主人は仕事で会社だといい、三歳くら
いの男の子がリビングで一人でトランプ遊びをしていた。この子もまた顔に大やけどを負ってい
た。ただ母親より明らかに状態がひどく、もはや顔の原形をとどめていないくらいで、鼻には管
が通してあった。
やけどのせいで表情が読み取れないものの、彼女の声や口調、物腰の柔らかさで我々も次第に
リラックスし、和やかな雰囲気で取材がはじまった。先輩が前もって得ていた情報を基に裏を取
るようにやり取りをしていた。
ところ、日が沈み始め、窓から西日が差し込むと女性の顔半分を照らしだした。その熱が気に
なるらしく、彼女は時折顔の筋肉をむずむずと動かす。私は、何気なく、ソファから立ち上が
り窓のカーテンに手を伸ばしながら、「カーテン、しめましょうか」と訊いた。すると彼女は
「なんで」と言った。今までとは違う声のようだった、威圧するような。その場の空気が明ら
かに変わった。
それをきっかけにその後のやりとりがおかしくなる。彼女はこちらが聞いたことに答えよう
とせず、「あなた(私)は、どこに住んでいらっしゃるの」とか「わたしの主人を知っている
の」「あの子(キチママ子)はあなた(妹)が連れて行ってくれるの」など、発言がおかしい。
さすがに先輩も、これはマズい、と思ったのか、話を切り上げて「じゃあ、今日はこのへんで」
と、立ち上がろうとする。すると女性は「今日は、と言うことは明日もくるのね」と立ち上がる。
我々も立ち上がり早々と玄関に向かった。女性はすぐ後ろをついてくる。途中、男の子の体に
足をぶつけても気にすることなく。男の子は奇妙な悲鳴をあげて泣き出した。我々は自分たちの
靴を手に持ち、家を出た。女性は、玄関のドアの前にたち、「近々、私がそちらに伺うわ」と言
った。
我々は逃げるように、駅前の喫茶店まで一言も声を出さないで早歩きできた。
いやあ、参った、と先輩は胸を撫で下ろしていたが、妹は考え込んでいた。女性が最後に言っ
た言葉。取材の前、ただの付き添いの私を除いて、他の三人は女性にサークルの名刺を渡して
いたことを思い出していた。先輩は気にすんな、と言っていたが、妹はアパートをしばらく留守
にして、私のアパートで生活させることにした。
先輩の恋人がアパートの台所で夕飯を作っていると、共用廊下に面した窓が勢いよく開き、
あの女性が立っていた。そして「こんな顔でいつまでもへらへらしていられると思うなよ」と
怒鳴り、出来損ないの火炎瓶を投げ入れて走っていってしまった。”火炎瓶”は瓶の中にただの水
を半分くらいまでいれ瓶の口から火のついた布を差し込んだ物で、部屋の中でごろごろと転が
っただけだったが、その時の女性の顔を思い出すと、これからのことを想像するだに恐ろしく
なり、警察に通報した。
その後あの女性はしかるべき施設に収容されたようだが、事情を訊こうにも警察は口ごもり、
逆に取材と称して面白半分に女性宅に赴いた、事の発端を窘められた。
しばらくして、妹は自分のアパートに戻った。久しぶりにドアを開けるとそこには大量の
使用済みオムツとあの男の子の写真がばらまかれていた。普通の生活風景の写真ばかりが何枚
もあるうち、私が確認した写真の1枚から判断すると、男の子はもうこの世にいない。