「このままだと観客は本当に減っていく一方だなと」
なでしこリーグの観客数が下降線をたどる中、ある選手が立ち上がった。日テレ・ベレーザとなでしこジャパンで10番を背負う籾木結花(もみき・ゆうか)だ。慶應義塾大学の4年生でもある彼女は、20日に行われるINAC神戸レオネッサ戦の集客プロデューサーに就任。『もみPプロジェクト』と銘打ち、様々な企画を考案、実現した。籾木を突き動かしたものとは? 女子サッカー界に一石を投じた22歳へのインタビューを前後編でお届けする。今回は前編。(取材・構成:青木務、取材日:2018年10月3日)
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――10月20日に行われるINAC神戸レオネッサ戦の集客プロデューサーに就任しましたが、経緯を教えてください。
「2011年のワールドカップで優勝して一気に増えた観客がその後、年々減っていくというのを自分はベレーザで経験してきました。どんどん人がいなくなっていくな、というのはすごく感じていて。大学に入ってからは特に、自分で集客に関わって何かを変えたいという思いはあったんですけど、きっかけを作ることができずに過ぎ去ろうとしていました。
ですが今回、卒論作成というタイミングをきっかけに何か企画をやらせてもらえないか、というお話をクラブにしました。クラブの方からは「是非やろう」という返事をもらえたので、こういう形になりました」
――クラブも協力的だったとのことですが、いつ発案したのですか?
「何かアクションを起こしたいという気持ちは自分の中であって、開幕前からクラブに伝えていました。リーグ前半戦ではベレーザの集客の現状などをもっと細かく知りたかったので、色々な情報を提供してもらい状況を把握しようと。それもあって、実際にアクションを起こすのは後半戦になりました。
――INAC戦に向けて準備してこられたのですか?
「個人的には9月22日(対浦和レッドダイヤモンズレディース)、10月20日(対INAC)と2回行いたいと思ったんです。でも9月22日に関しては、7月になでしこジャパンのアメリカ遠征があり、8月もアジア大会で約1ヶ月いなかったこともあって、9月に行うのは難しいなと。
それで、10月20日に絞ってやることになったんですけど、INAC戦でというのはそんなに意識していなくて。でも今考えれば、なでしこジャパンの在籍人数が一番多い対戦カードですし、その辺りも注目してもらえるポイントかなと思っています」
負傷離脱中に浮かんだアイディア
――籾木選手は怪我のため5月まで出場機会がありませんでした。離脱中は外から試合を観ていたと思いますが、集客に関して色々と考えることもできましたか?
「試合に出られない期間のホームゲームでは、グッズの売り子もやっていました。実際にファンの方たちがどういう風に試合を観に来ているのかというのを肌で感じられたので、すごく良かったなと思いますね。怪我もいい経験になったかなって(笑)」
――売り子という立場でファン・サポーターと接して、どんなことを感じましたか?
「チームというよりは、選手を応援している方が多いという印象を受けました。500円くじがあったんですけど、自分を含め売り子が3人いたら3回くじを引いてもらえたりとか。グッズ販売も『選手』という要素が少し入るだけで、ファンの方たちにとってはまた意味合いが違ってくるというか。商品そのものは変わらないけど、普通に買うのと選手を通して買うのとではやっぱり体験という意味で違うと思います。
今回の企画では、選手たちがオリジナルタオルをデザインしてくれています。選手がグッズを作ることでより特別感を出せるのではないか、というのは売り子をやった時に少し考えていました」
――『プレミアムシート presented by もみP』は販売開始から4日ほどで完売となりました。
「思っていたよりも早くてびっくりしました。5000人を呼んで満員にしたいという中での20席ってかなり少ないですけど、それでも一席1万円というお金を払ってくれる方が20人も来ていただけるというのは本当にすごいことだなと。あと、『売り切れ』や『完売』というワードを出せるのもすごくプラスになるのではと感じます。面白そうなのかな、と興味を持ってもらえると思うので」
SNSを有効活用。情報を発信する際の工夫
――プレミアムシートのポイントを教えてください。
「普段できない経験をしてもらいたかったので、選手入場時の花道や選手たちとの集合写真撮影を特典にしました。普段だったらエスコートキッズの小さな子たちしか入れない場所ですけど、プレミアムシートを購入してもらうことで、そうした体験ができるように。直筆のメッセージもプレゼントさせていただくのですが、『本当にありがとうございます』という気持ちを込めて、一枚一枚書かせていただきました」
――オリジナルタオル購入者にはアンケートもつけていますね。
「まず、グッズを購入してくれた方がどういう層なのかを知りたいなと思っています。それと、この取り組みがどういう風に伝わっているのか、どういう意見があるのかも知りたくて。今後こういう機会があった時にまた購入したいかどうかも聞きたいですし、自分の持っている狙いがちゃんと合っているのかも。今後に繋げていく意味でも、アンケートは皆さんに協力していただけたらなと思います」
――今回の満員プロジェクトをより多くの人に知ってもらうために、どのような工夫をされましたか?
「情報を出す順番は考えました。クラブとして大きくリリースを出す前に、タオルのデザインを考えている様子を写真や動画に撮って、『何かわからないけど選手が何かやっている』という形で、先にSNSで発信しています。選手たちが主体となってやっているというのは必ず見せたいというか、わかってもらいたかったので。選手たちも積極的に発信してくれました」
様々な反響に触れて
――『選手が集客プロデューサー』ということ自体が、興味を惹きつける要素になると思います。
「本当に色々な層をターゲットにしたいなと考えていて。まず一つ、グッズ企画を通して呼びたいのは、クラブやチームのサポーターというよりも選手個人を応援している人。なでしこジャパンの試合を観たり、テレビ出演で選手個々の存在は知っているけど、試合を観に来たことはないという層をグッズ企画で呼び込みたいなと思っています。『自分たちでやっているんだよ』というのを、選手自身がSNSなどでどんどん発信していくことで、彼女たちのフォロワーに届くのではないかなと考えています。
もともと応援してくれている人たちには、チケット企画を通してより深くこのチームに関わってもらいたいという思いがあります。もう一つのターゲットとしては全く試合を観に来たことがない、女子サッカーもあまり知らない人たち。この層には自分が発信することで、例えばビジネスパーソンなどの共感を得られればなと。それがどんどん拡散されていくことで、女子サッカーにもこういう選手がいるんだというのを知ってもらいたいです」
――反響もあったと思いますが、その辺りはいかがですか?
「なでしこリーグの中で選手がこういったアクションを起こすというのは、今まであまりなかったので、内容はどうであれ“やったもん勝ち”だなと。とにかくやることが大事、という風に感じています。
様々な反響があるだろうなとは思っていたんですけど、他のチームのサポーターの方とかも全く批判的じゃなくて、『ベレーザが本気出してきたぞ』とか『自分たちのチームもこういうことをやらなきゃな』という感じで。自分の行動が周りの意識を変えていくような反応を得られたのは、すごく良かったかなと思います」
▽籾木結花(もみき・ゆうか)1996年4月9日、アメリカ出身。2011年、中学3年でなでしこリーグデビューを果たすと、その試合で初ゴールを記録。16年から背番号が『10』に変更。現在、2季連続でリーグベストイレブンに選出されている。日本代表としてはU-17(リトルなでしこ)、U-20(ヤングなでしこ)を経て、17年になでしこジャパンデビュー。今年8月のアジア大会では10番を背負い、優勝に貢献した。国際Aマッチ20試合出場5得点。