英2部に異変!? 補強資金50億円…1つのクラブを変えた中国資本と大物代理人。そこに渦巻く闇

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ウォルバーハンプトンをプレミアに導いた2つのキーワード

来季のプレミアリーグ昇格を最初に確定させたのはウォルバーハンプトンだった。一時は3部降格も経験するなど近年は低迷続きだったクラブが復活を遂げた裏には、「闇」とも言える2つのキーワードが隠れていた。イングランド中部に本拠地を置く古豪はいかにして6年ぶりのプレミアリーグ復帰を掴み取ったのだろうか。(文:舩木渉)

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来季のプレミアリーグ昇格を最初に決めたのはウォルバーハンプトン・ワンダラーズだった。「懐かしい」とすら感じるオレンジと黒のユニフォームが、チャンピオンシップ(2部相当)で輝きを放った。

ウォルバーハンプトンが最後にプレミアリーグを戦ったのは2011/12シーズンのこと。その年は最下位で降格の憂き目に遭い、なんと翌年もチャンピオンシップ23位でリーグ・ワン(3部相当)へ降格してしまった。

迎えた2013/14シーズンで無事にリーグ・ワン優勝を果たし、チャンピオンシップに舞い戻るも、それからの3年間は7位、14位、15位と苦戦し、昇格争いに加われるような状態ではなかった。にもかかわらず、2位以下に12ポイントの大差をつけて来季のプレミアリーグ昇格を勝ち取れたのはなぜなのだろうか。

そこには「中国資本」と「敏腕代理人」という2つのキーワードが隠れている。ウォルバーハンプトンは下部リーグでの苦しい戦いを強いられる中で、以前とは全く違う姿に変貌を遂げていた。

転機になったのは2016年7月のクラブ買収である。低迷続きで苦境に立たされていたクラブに、ある中国の民営投資会社が接触してきた。それが現在クラブのオーナーシップを保有する「復星集団」である。

上海に本拠地を置く復星集団は、香港で上場させている子会社の「復星国際」にウォルバーハンプトンの株式を100%取得させ、当時のオーナーであるスティーブ・モルガン氏からクラブを買い取った。復星集団はレジャー産業への投資を活発化させており、日本でも2015年に北海道の「星野リゾートトマム」を買収して話題になった。

そして、この復星集団とウォルバーハンプトンの橋渡し役を担ったのが、「敏腕代理人」として知られるジョルジュ・メンデス氏である。このポルトガル人代理人の姿は昇格を決めた今月15日のバーミンガム戦でもスタンドにあり、中継映像でしっかりと抜かれていた。

クリスティアーノ・ロナウドやハメス・ロドリゲス、ジエゴ・コスタら数々の大物を顧客に抱えるメンデス氏は、近年自らが代表を務めるマネジメント会社「Gestifute社(ジェスティフト社)」を通じて、クラブの運営や買収を手助けするコンサルト業にも取り組んでいる。

例えば2013年、ロシア人大富豪のディミトリ・リボロフレフ氏によるモナコ買収を手引きしたのもメンデス氏だった。さらにこの代理人は自らの顧客であるハメスやラダメル・ファルカオ、リカルド・カルバーリョをモナコに送り込んでクラブの戦力強化にも一役買っている。

メンデス氏による古豪の一大改革

一方で失敗例もある。2014年、深刻な経営難に陥っていたスペインの名門バレンシアに、“救世主”としてシンガポール人投資家のピーター・リム氏をオーナーとして送り込んだ。この買収劇は成功するかに思われたが、近年の成績を見る限り完全な失敗に終わった。

自らの息のかかったヌーノを監督として、さらに多くの選手のバレンシア移籍も成立させながら、昨季は2部降格寸前まで追い込まれた。ピーター・リム氏が資金を出し渋るなど、マネジメント面での不手際も失敗の要因だった。

とはいえメンデス氏の影響力は母国ポルトガルのほか、スペインやイングランド、さらに東はロシアまで欧州全土に広く及んでいる。そして、新たに目をつけたのが2部で低迷していたウォルバーハンプトンだった。

アドバイザー的役割でウォルバーハンプトンの経営に関与し始めたメンデス氏は、昨季開幕前からその辣腕を遺憾なく発揮した。良好な関係を築いているベンフィカやモナコなどから自らの顧客であるポルトガル人選手を中心に大量補強を敢行。新オーナーである復星集団の資金力も活用し、移籍金だけで2部では異例とも言える3300万ポンド(約50億円)を動かした。

だが、唯一の誤算が監督選びだった。当初はポルトやスペインユース代表の監督を歴任したフレン・ロペテギの招へいに動いたが、契約直前までこぎつけながら、元バルセロナのGKがスペインA代表からのオファーを受けたことで取引が破談となる。

その後、元イタリア代表の伝説的GKであるワルテル・ゼンガを監督に据えた。ところがこれがうまくいかず、就任から約3ヶ月経った2016年10月に解任。後を引き継いだポール・ランバート監督もチームを立て直せず、24チーム中15位というチャンピオンシップ復帰後最低成績でシーズンを終えることになる。

それでも諦めないのが大物顧客を大量に抱えるジョルジュ・メンデスという男である。今季は、ジェスティフト社設立当時、若手だった頃からサポートしているヌーノを監督としてウォルバーハンプトンに呼び寄せた。バレンシアでの挑戦が失敗に終わっていたものの、最終的にはプレミアリーグ昇格という形で監督としての手腕が疑いのないものだったと証明することになる。

大型補強だけでない躍進の要因。見事な古参と新参の融合

さらに選手補強でも代理人としてのコネクションをフル活用した。17歳の若さでポルトのトップチームでデビューを飾り、18歳で史上最年少キャプテンとしてチャンピオンズリーグの舞台に立ち、ポルトガル代表歴も持つ欧州屈指の有望株ルベン・ネヴェスを、市場価値を大きく下回る1580万ポンド(約24億円)の移籍金(それでもチャンピオンシップ史上最高額だが)でウォルバーハンプトンに引き入れる。

他にもアトレティコ・マドリーで居場所がなかった当時20歳のジオゴ・ジョッタの期限付き移籍をまとめ、イングランド代表歴を持つベテランGKジョン・ラディや、ビジャレアルで活躍していたアルフレッド・エンディアイエなど、欧州トップレベルでの実績を持つ実力者を中心に多くの選手の獲得を実現させた。

もちろん今回のプレミアリーグ昇格はメンデス氏の手腕だけが効果を発揮したわけではない。国内外から集められた選手たちがヌーノ監督の下で輝きを放ったからこその成果である。

ポルトガル人指揮官は3-4-3を基本フォーメーションに、43節終了時点で29勝8分6敗という目覚ましい成績を引き出した。稼ぎ出した勝ち点は95ポイントに達し、シーズン終了時には「勝ち点100」の大台も見えている。

ウォルバーハンプトンは15節以降、一度も首位の座を譲らず昇格まで駆け抜けた。この快進撃を支えたのはメンデス氏が連れてきた選手だけではない。中国資本による買収前から在籍していた選手との融合も鍵になった。

特筆すべき貢献を見せたのは多くの試合でゲームキャプテンを務め、3バックの中央で攻守の柱として奮闘しているコナー・コーディである。2015年にウォルバーハンプトンへとやってきたセンターバックは、3バックを両サイドに大きく広げる特徴的なビルドアップにおいて攻撃の起点として機能したほか、レッドカードによる出場停止の1試合を除くすべての試合に出場して36失点という堅守を支えた。

リバプールのトップチームに定着しきれなかったが、プロデビュー当時はセントラルMFだった経験がセンターバックでの開花につながった。また、ユース時代にはキャプテンも務めていた元イングランドU-20代表DFは天性のリーダー気質で多国籍なチームをまとめ上げた。

アトレティコからのレンタルで加入したジオゴ・ジョッタも41試合に出場して16得点6アシスト、在籍2年目のポルトガル代表FWイバン・カバレイロが42試合の出場で9ゴール12アシストを記録するなど、メンデスの息のかかった自慢の攻撃陣もうまく噛み合った。

プレミア昇格に「待った」!?

ここまでを見ると、ウォルバーハンプトンのプレミアリーグ昇格後も順風満帆かのように見える。だが、英紙『ガーディアン』の報道によれば、プレミアリーグとFA(イングランドフットボール連盟)が昇格そのものに「待った」をかける可能性があるという。

原因はメンデス氏とクラブの関係性にある。FAは代理人がクラブの業務に「重要な影響力」を持つことを禁じている。ウォルバーハンプトンを買収した復星集団がジェスティフト社の株式をを一部保有していることが問題視されている。

このルールでは「クラブが5%以上の株式を所有しているか、財務上または商業上、直接的でも間接的でも、正式にであろうと非公式であろうと、代理人がクラブの業務に影響を与えてはならない」と定められている。

しかし、これまでの2年間、チャンピオンシップを管轄するイングランド・フットボールリーグはメンデス氏とウォルバーハンプトンの関係を黙認してきた。それがプレミアリーグに昇格することでどのような扱いに変化するか注目されている。

もちろんメンデス氏も、すでに“公然の秘密”になっていながら、自らがウォルバーハンプトンの選手獲得などに影響を及ぼしていないと主張し続けている。ジェスティフト社の株式も、復星国際が直接保有するのではなく、別の法人が間接的に保有する形にしているとも言われている。

また、選手を獲得する際に提出される書類にも「ジョルジュ・メンデス」という名前は一切出てきていないという。例えばメンデス氏の顧客として有名だったルベン・ネヴェスの獲得において、ポルトからウォルバーハンプトンへの移籍の際に交渉を担当した代理人はホルヘ・ピレス・セラスヘイロ氏として申請されている。

ジオゴ・ジョッタの獲得交渉にしても、届け出書類には担当した代理人がスペイン人のカルロス・ブルセゴ・ゴメス氏と記録されている。昨年ウォルバーハンプトンに加入したイバン・カバレイロやジョアン・テイシェイラの取引でも書類には別の代理人の名前が記された。

ピレス・セラスヘイロ氏やブルセゴ・ゴメス氏は、表向きはメンデス氏と無関係ということになっている。復星集団によるクラブ買収後、移籍交渉においてジェスティフト社の名前が書類に現れたのは一度だけだったと『ガーディアン』紙は伝えた。

敏腕代理人と中国資本が進む先に見えるのは光か闇か…

かつて自身が関わった顧客とともに脱税疑惑をかけられたことがあり、本来は禁止されているはずの第三者による選手保有になりかねない「投資ファンドを用いたクラブへの資金融資と選手獲得」をビジネスに活用していたメンデス氏は、規制の網をかいくぐる穴をいくつも用意していたということだろうか。

ただ、回避できるか微妙なのがUEFA(欧州サッカー連盟)が定める「ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)」である。ここ2年間、選手獲得に費やした支出が選手売却による収入を大きく上回っているウォルバーハンプトンは、近い将来UEFAによる制裁を受ける可能性がある。これを回避するには選手売却による収益か、入場料や放映権料、スポンサーや広告を対象とした収入によって、収支のバランスを黒字にしなければならない。

プレミアリーグ昇格によって来季に向けて4〜5人の新戦力獲得が見込まれる中、主力選手の売却も進める必要があるかもしれない。2部でも平均2万5000人以上を動員するウォルバーハンプトンとはいえ、オーナーからの資金投下やスポンサー収入や分配される放映権料の収入のみに頼るのは難しい。

例えばすでにリバプールなどが関心を示しているルベン・ネヴェスを、獲得時よりも大幅な高額で売却するなど収入を確保する選択肢はいくつかある。同選手はもともと市場価格よりも大幅な安値で獲得しているため、次回売却時に生じた移籍金の何割かをウォルバーハンプトン加入前の所属クラブに分配する条項を契約に盛り込んでいる可能性もあるが、大きな収入を得られるのは間違いない。

様々な壁を乗り越えなければならないとしても、タイ人オーナーのもとで2015/16シーズンに奇跡のプレミアリーグ制覇を成し遂げたレスター・シティのように台風の目となり、ウォルバーハンプトンが“第2のレスター”になれる潜在能力を秘めているのも事実。

6年ぶりにプレミアリーグの舞台に戻ってくる古豪クラブが進む道は栄光か、あるいは破滅か。中国資本と世界一のスーパーエージェントの力を後ろ盾に突き進むウォルバーハンプトンの今後は、急速に拡大を続ける欧州サッカービジネスの未来を占ううえで重要な意味を持つかもしれない。

(文:舩木渉)

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