中島不在。それでも…
日本代表は9日、アジアカップのグループリーグ初戦でトルクメニスタン代表と対戦する。大会開幕前から離脱者が相次ぎ、チーム事情や体調不良などもあって23人全員が揃ったのは初戦の3日前だった。それでも勝たなければいけないのがアジアの戦い。優勝できなければサムライブルーに未来はない。(取材・文:舩木渉【UAE】)
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「本当に痛いというのが正直な感想ですけど…」
いつも強気な、あの堂安律にしては珍しく本心にあった不安が表に出てきたようだった。森保一監督のもとで日本代表の攻撃陣をともに引っ張ってきた中島翔哉の不在について問うた時に発した言葉だ。
だが、これには続きがある。
「ただ翔哉くんができるプレーも僕がやらなくちゃいけないとも思っていますし、タメを作るプレーというのは僕自身できると思っているので、そういうのも意識してプレーしたいと思います」
ロシアワールドカップが終わり、若返った日本代表において最も重要な攻撃の起点になっていたのが10番を任されるようになった中島だった。左サイドを根城にするサッカー小僧がボールを持てば、それに呼応して周りの選手たちが一斉にゴールへ向かって動き出す。
大迫勇也がサポートのために近寄ってきたり、南野拓実がストライカーの背後にできたスペースへ走り込んだり。堂安は逆サイドに張るのではなく中央寄りにポジションを取って、そこから一気にゴール前まで突進していく。
「翔哉くんのプレーはすごく僕たちの武器でしたし、翔哉くんがボールを持った時の自分の動き出しというのは、本当にあの人のおかげで磨かれた僕の武器だと思っているので」
冒頭の発言の直前に、堂安は中島から受けた影響について言及していた。一緒にプレーしたのは9月から11月の日本代表活動中の短期間のみでも、彼らは感覚的に分かり合い、イメージを共有しながら互いを高めていった。
そんな絶大な存在感を放っていた「武器」を失った今、堂安は自分で全てを背負って戦おうとしている。アジアの頂点を目指す戦いを前に「とにかくワクワクしている気持ちが大半」だという20歳の若武者は、「みんなの期待があるというのもわかっていますし、それに応えなくちゃいけないというプレッシャーも少し感じながら、いい緊張感を今は持っている感じです」と高揚感を隠さない。
期待というのは大きく膨れ上がれば膨れ上がるほど、プレッシャーとして重くのしかかってくる危険性も秘めている。特に優勝候補を目されるアジアカップのような大会になれば、「勝って当たり前」という状況が、ふとした時に次の一歩を踏み出せなくなるほどの重荷となって前進を阻んでくるかもしれない。
キャプテン吉田からの忠告
だが、8年前にアジアの頂点に立ち、2度のワールドカップも経験して酸いも甘いも噛み分けた吉田麻也はこう言い切る。
「プレッシャーの中で戦えるようにならないと、これからのアジア予選に関しても、もちろんワールドカップも、もしくは個々の選手のキャリアとしても戦っていけなくなると思う。やっぱりこういうプレッシャーの中に身を置いていくことが、若い選手にとって成長につながる」
今や中島、南野拓実、堂安の3人で構成されるユニットは、新生日本代表のシンボルとなったが、アジアカップに限っていえば中島はおらず、“NMD”のハーモニーを奏でることはできない。ただ、それでも勝たなければいけないことに変わりはなく、アジアカップだからこそ1人ひとりの結果に対する責任はこれまでの親善試合よりもはるかに重い。
吉田は「このプレッシャーに勝てるようにならないと次のステップを踏めないぞという意味でも、あえて『期待』という言葉を多く使っている」という。なぜなら、これから欧州のハイレベルな環境でステップアップしていきたいと望む若い選手たちにとって、アジアは越えていかなければいけない最低限の壁だからだ。
2011年のアジアカップ。日本はグループリーグ初戦でヨルダンと引き分け、2戦目のシリア戦では勝利こそもぎ取ったもののGK川島永嗣がまさかの退場処分を宣告された。これだけ厳しいスタートを強いられながら勝ち上がり、準決勝の韓国戦での120分&PK戦、延長戦までもつれた決勝のオーストラリア戦にも勝ち切って頂点に立った。
当時オランダのVVVフェンロ所属だった吉田は、あわや敗戦という危機に立たされた初戦のヨルダン戦で後半アディショナルタイムにヘディングでチームを救う同点弾を叩き込んで日本を救った。準々決勝ではイエローカード2枚で退場という苦渋も味わったが、出場停止だった準決勝を除く全試合に出場してアジア王座奪還に大きく貢献した。
大会前までA代表キャップがわずか1試合だった22歳のセンターバックは、アジアカップでの経験を糧にスケールアップし、1年半後に活躍の場をプレミアリーグへと移す。サウサンプトンでは今や重鎮の1人で、リーグ内でも実力を認められる世界基準のDFへと飛躍を遂げた。
森保ジャパンで長谷部誠の後を継ぐキャプテンに指名された背番号22は、4年前に失った王座を取り戻す戦いに向けて「今まで日本代表として戦ってきた選手たちが作り上げてきた誇りや責任というのを、この若い日本代表が新たに背負って戦う場だと思う。そういう意味でもこの大会は非常に大きな大会になる」と引き締まった表情で語っていた。
重圧を乗り越えた先に…
確かに11月までの親善試合では、中島ら2列目の“NMD”がいるかいないかで攻撃のクオリティに大きな差が出ていた。それでも「NMDがいなくて大丈夫?」などとはもう言っていられない。彼らが1人欠けようが、1人もいなくなろうが、アジアカップは優勝が目標であるだけでなく、優勝しなければならない大会なのである。吉田が言うような「期待」に応える結果を残せなければ、若い選手たちの将来のステップアップがなくなってもおかしくはない。
堂安は以前「プレッシャーをかけられるのは嫌いではないですし、プレッシャーがかかればかかるほど自分の力を発揮できると思っているので、本当に楽しんでいますね、プレッシャーを」と言って不敵な笑みを浮かべていた。試合前にはあえて緊張するようにメンタルをコントロールしてピッチに向かうほどの男。それならばアジアの舞台で真の力を見せてもらうしかない。
これまで右利きの中島が左サイドで担っていた攻撃のスイッチ役を、左利きの堂安が右サイドでこなす。今でこそボールを持っていない状態での動き出しや駆け引きに磨きがかかったが、元はボールを持ってナンボの突貫ドリブラーだったのだから、同じようにできないはずはない。
もちろん左サイドに入ると予想される原口元気や乾貴士がボールを持った際に、ゴール前へ突っ込んでいくこれまで通りの形も忘れてはならない。さらに中島が蹴ることの多かったセットプレーでも、堂安の左足から強烈なキックが放たれれば10番の不在を補うことができるだろう。
中島の不在を他の選手で補い、新しい形を見つけることができればチーム力の底上げにもつながる。アジアカップは決勝まで勝ち進めば最大7試合を戦うことができ、その間の合宿で組織を熟成していくことも可能。負傷離脱した選手たちに代わる人材が台頭すれば、競争もより激しくなって森保ジャパンは活性化していく。その先頭に立つべき存在が堂安だ。
彼は言う。「やっぱりタイトルを獲ることによって自分の価値もぐっと高まると思いますし、親善試合だけじゃ判断しづらいものもあると思うので、国民のみんなのそれを確信に変えられるプレーを、結果を出していきたい」と。
ならばあえてプレッシャー…いや「期待」をかけたい。堂安が自らのプレーでチームを引っ張り、アジアカップで優勝できなければ、今の日本代表に未来はない。その「期待」を軽々と越えて見せてこそ、堂安律なのではないか?
(取材・文:舩木渉【UAE】)