危険な好奇心・ハッピータッチ4

彩智の都市伝説

これで全てが終わる。

駅前の交番へ二人して飛び込んだ。

『ん?!どうしたの?』

中にいた若い警官が、笑顔で俺達を迎えてくれた。

俺達はその警官の元に歩み寄り、『助けてください!』と言った。

俺と慎は、あの夜の出来事を話した。裏付ける写真も一枚一枚見せながら話した。

そして、今も『中年女』に狙われている事を。

一通り話し終わると、その警官は穏やかな表情で『お父さんやお母さんに言ったの?』

俺たちは親には伝えてないと言うと、

『ん~んぢゃ、家の電話番号教えてくれるかな?』と警官は言い出した。

慎が『なんで親が関係あるの?狙われているのは俺達だよ?!』とキレ気味に言い放った。

ちなみに慎の両親は医者と看護婦。高校生の兄貴は某有名私立高校生。

俺達3人の中で一番裕福な家庭だが、一番厳しい家庭でもある。

あの夜は親に嘘をついて秘密基地に行き、このような事に巻き込まれたとバレれば、

俺や淳もだが、慎が一番洒落にならないのである。

『助けてよ!警察官でしょ!!』と慎が詰め寄る。

警官は少し苦笑いして、

『君達小学生だよね?やっぱり、こーゆー事はキチンと親に言わなきゃダメだよ』

と、しばらくイタチゴッコが続いた。

あげくに警官は、『じゃあ君達の担任の先生は何て名前?』など、

俺達にとっては脅しに取れる言葉を投げ掛けてきた。

まぁ警官にとっては、俺達の保護者及び責任者から話を聞かないと・・・って感じだったのだろうが、

俺達にとって、こういう時の親や先生は、怒られる対象にしか考えられなかった。

そうこうしているうちに、俺達の心の中に、目の前にいる警官に対して不信感が芽生えてきた。

このまま此処にいれば、無理矢理住所を言わされ、親にチクられる!と。

この警官は、俺達の話を信じてくれてないのでは?と俺は思い始めた。

俺や慎が必死に助けを求めているのに、『親』『先生』ばかり言ってくる。

俺達は『中年女』の存在を裏付ける、証拠写真まで持参しているのに・・・

俺はもう一度警官に写真を見せつけ、『犬をこんな殺し方する奴なんだよ!』と言った。

すると警官はしばらく黙り込み、写真を手に取り、意外な一言を言った。

『ん~・・・これって犬?なの?』

『は?』と俺と慎は驚いた。この人は何を言っているんだろう!と。

続けて警官は、『いや、君達を信じていない訳じゃないよ。じゃあもう少し詳しく教えて。ここが頭?』

警官は冗談を言っている訳では無く、本当に分からないようだ。

俺はハッピーの写真を取上げ、『だから・・・』と説明しかけて言葉が詰まった。

確かにこの写真を客観的に見ると、犬の死骸には見えないかも・・・と思った。

薄茶色に変色した骨に、所々わずかに残っている毛。

俺と慎は、ハッピーが死体になった翌日にも見ているので、

腐食が進んでいても元の形(倒れていた角度、姿)を知っているが、

知らない奴が見ると、ただの汚れた石に汚い雑巾の様なものが、絡んでいるようにしか見えないかも知れない。

俺は冷静に他の写真も見てみた。

板に刻まれた『淳呪殺』、少女の写真に無数の『釘』。

たしかに、『中年女』の存在に直接結び付けるのは難しいのか?

ひょっとして警官は、小学生の悪戯と思っていて、先程から『親』『担任』などと言っているのか?

俺はこのまま此処にいては危険だと感じ出した。

『絶対、親を呼び出すつもりだ!』

俺は慎に小さな声で耳打ちした。

慎は無言で頷き、アゴをクイッと動かし、外に出る合図を送ってきた。

すると次の瞬間、慎は勢いよく振り向き走りだした。

俺もすぐさま後を追い、交番から抜け出した。

後ろから『おいっ!』と警官が呼び止める声がしたが、俺達は振り向かずに走り続けた。

警官が追い掛けてくる気配は無かった。

警官はおそらく、悪戯しにきた小学生が、嘘を見破られそうになり逃げ出した。とでも思っているのだろう。 

俺と慎は、警官が追って来ていないことを充分に確認し、道端に座り込み、緊急ミーティングを開催した。

『これからどーする?』

『どーしよ・・・』

俺達は途方に暮れていた。最後の切り札の警察にも信じてもらえず、『中年女』から身を守る術を失った。

これで全てが解決すると俺達は思い込んでいただけに、ショックはデカかった。

『このままだったら中年女に住所バレて・・・』

俺は恐かった。

すると慎が、『しばらくあの女には出くわさないように注意して・・・』と言いかけたが、

俺はすぐに、

『もう無理だよ!淳の学年とクラスがバレてる時点で、すぐに俺らもバレるに決まってる!』と少し声を荒げた。

『でも、あの女・・・俺達に何かする気あるのかな?』

『?』

慎が言いだした。

『だってこの前俺ら、学校帰りにあの女に出会ったじゃん。もし何かするつもりなら、あの時でも良かった訳じゃん』

『・・・』

慎が続けて、

『それに山・・・もし俺らのことを許してないなら、山に何らかの呪い彫りとかあってもいーはずじゃん』

『・・・』

たしかに。山に行った時、新しい俺達に対する呪い的な物は無かった。

秘密基地は壊されていたが・・・

新しい女の子の釘刺し写真はあったが、

俺達・・・まして、フルネームがバレている淳の呪い彫りも無かった。

俺は内心、そーなのかな?と反論したかったが、しなかった。

慎の言う通り、実は俺達が思っている程『中年女』は俺達の事を怨んでいない、忘れかけている。と思いたかった。

慎はもう一度、『俺らを本気で怨んでいるなら、何らかのアクションを起こすはずだろ?』

と、まるで俺を安心させるかのように言った。

そして、『学校の近くをウロついてるのも、俺らを捜してるんぢゃなく、写真の女の子を捜してる可能性もあるだろ?』

と言葉を続けた。

『そーか・・・』

俺はその慎の言葉を聞いて、少し気持ちが楽になった感じがした。

と言うか、慎の言った言葉を自分自身に言い聞かせ、自分自身を無理矢理納得させようとした。

それは現実逃避に近いかもしれない。

慎自身もそうだったのかも知れない。

もう『中年女』から逃げる術が見つからず、言ったのかも知れない。

しかし俺は、俺達は、

『そーだよな!そのうち俺らのことなんて忘れよる!』

『もう忘れとるって!』

『なんだよチクショー!ビビって損した!』

『ほんま、あの女、泣かしたろか!』

とお互い強がって見せた。

ある意味、やけくそに近いかもしれない。

しばらくその場で、慎と『中年女』の悪口などを談笑していた。

辺りは薄暗くなり始め、俺達は帰宅することにした。

慎と別れる道に差し掛かって、

『明日の帰り、淳の様子見に行こっか!』

『おう!そやな!』

とお互い明るく振る舞って、手を振り別れた。

俺の心は少し晴れやかになっていた。

そーだよな・・・慎の言う通り、中年女はもう俺達の事なんて忘れてるよな・・・と。

まるで自己暗示のように、繰り返し言い聞かせた。

足取りも軽く、石を蹴りながら家に向かった。

空を見上げると雲も無く、無数の星がキラキラ輝き、とても清々しい夜空だった。

今まで『中年女』の事でウジウジ悩んでいたのが、馬鹿らしく思えた。

自宅に近づき、その日は見たいアニメがあるのに気付き、俺は小走りで家に向かった。

『タッタッタッタッ・・・』

夜の町内に俺の足跡が響く。

『タッタッタッタ・・・』

静かな夜だった。

『タッタッタッタッ・・・』

ん?

『タッタッタッタ・・・』

俺の足音以外に違う足音が聞こえる。

後ろを振り向いた。

暗くて見えないが誰もいない。気のせいか。

ナンダカンダ言って俺は小心者だな、と思いながら再び走った。

『タッタッタッタッ・・・』

『タッタッタッタ・・・』

ん?誰かいる。

俺はもう一度立ち止まり、目を凝らして後ろを眺めた。

・・・やっぱり誰もいない。

確かに俺の足音にマジって、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえたのだが?

俺も淳のように、自分でも気付かないうちに、精神的に『中年女』追い詰められているのか?

ビビり過ぎているのか?

しばらく立ち止まり、ずーっと後ろを眺めた。

ドックンドックン鼓動を打っていた心臓が、一瞬止まりかけた。

15M程後方、民家の玄関先に停めてある原付きバイクの陰に、誰かがしゃがんでいる。

いや、隠れている。

月明かりでハッキリ黙視できないが、一つだけハッキリと見えたものがある。

コートを着ている!

しばらく俺は固まった。

隠れている奴は、俺に見つかっていないと思っているようだが、シルエットがハッキリ見える!

俺は一瞬混乱した。

中年女だ!中年女だ!中年女だ!中年女!中年女!

腰が抜けそうになったが、本能だろうか、次の瞬間、

逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ逃げなきゃ!

と、もう一人の俺が俺に命令する。

俺は思いッキリ走った!運動会の時より必死に走った。風を切る音以外聞こえない程、無呼吸で走った。

無我夢中で家に向かって走った。

家まであと10M。

よし!逃げ切れる!

『!』

一瞬、頭にあることがよぎった。

このまま家に逃げ込めば、間違いなく家がバレる!

俺はとっさに自宅前を通過し、そのまま住宅街の細い路地を走り続けた。

当てもなく、ただ俺の後方を着いて来ているであろう『中年女』を巻く為に・・・

5分ほど、でたらめな道を走り続けた。

さすがに息がキレて来て歩きだし、後ろを振り向いた。

もう、『中年女』らしき人影も足音も聞こえて来ない。

俺は周囲を警戒しつつ、自宅方面へ歩き始めた。

再び自宅の10M程手前に差し掛かり、俺はもう一度周囲を警戒し、玄関にダッシュした。

両親が共働きで鍵っ子だった俺は、すばやく玄関の鍵を開け 中に入り、すばやく施錠した。

『フぅー・・・』

安堵感で自然とため息が出た。

とりあえず慎に報告しなければと思い、部屋に上がろうと靴を脱ごうとした時、玄関先で物音がした。

『!?』

俺は靴を脱ぐ体制のまま固まり、玄関扉を凝視した。

俺の家の玄関は、曇りガラスにアルミ冊子がしてある引き戸タイプなのだが、曇りガラスの向こう側に・・・

玄関先に誰かが立っている影が映っていた。

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