【怖い話】もう一人

kuka

Kさんが、高校生の時の話だ。

Kさんは、とある同好会に所属していた。

その日もメンバーたちと同好会室に集まり、いつも通り過ごしていたという。

ところで。

このKさんの所属する同好会の同好会室は、創立以来80年以上使用されている木造校舎の東館にあった。当時は他にも木造校舎がいくつか残っていたという。

「そろそろ帰ろうか」

誰ともなくそう言い出した。ふと、窓から外を眺めると、他部の気配もない。

時計を確認すると、下校時刻を過ぎていた。

「僕が同好会室の戸締りをするよ。先にみんな、東館を出てくれ」

Kさんが申し出ると、皆は口々に「お先」「じゃあ、よろしく」と言って同好会室を出た。

Kさんも電気を消し、廊下に出る。

廊下は、随分と薄暗い。

この時刻、廊下に忍び込むのはすでに夕陽ではなく、薄闇だった。

二学期が始まり、季節は秋から冬に移行しつつあるこの時期は、日暮れも早い。

Kさんは目を凝らしながら、鍵穴に鍵を差し込んだ。

その時、ふと。

目が、『色』を捕えた。

何もかもが薄墨色に染まる廊下の中で。

Kさんの視覚が捕えたのは。

『白』だった。

すぐに、制服のカッターシャツだと気づく。

施錠をしながらも、ちらりと目に入り込んだ校章の色は同級生のそれだった。

『この身長からすると……。A君かな』

Kさんはがちゃりと鍵を回しながら、苦笑する。律儀だな。待っててくれてるのか。

Kさんは鍵を抜き取り、施錠を確認した後、笑顔で振り返った。

「A君、お待たせ。帰ろうか」

だが。

そこには、誰もいなかった。

「……あれ?」

思わずKさんは呟き、周囲を見回した。

いた、はずだ。

確かに視線も感じたし、なにより白い半袖カッターシャツを見た。

自分の目には。

彼の『白』と『校章の色』が残像のように焼き付いている。

Kさんは首をひねりながらも、鍵を学ランのポケットに滑り込ませ、東館出口に向かった。

「お疲れ」「ありがとうな」

東館からKさんが出ると、同好会の皆がそう声をかけてくれた。

顔を捩じり、Kさんは皆を見る。

薄暗い中、学ランを着込んだ皆は黒く、そこだけ闇が濃くなったように見えていた。

そこには。

A君もいる。

「A君、戸締りに付き合ってくれてありがとう」

Kさんは皆に足早に近づき、礼を口にする。だが、A君どころか皆が怪訝そうにKさんを見返した。

「Aはずっと、ここにいたけど?」

「え……? そしたら、誰が僕の側にいたんだ?」

Kさんの質問に、皆が顔を見合わせる。

そして、ようやく。

Kさんは気づく。

自分を含め、皆、学ランを着ているのだ。

冬服じゃないか、と。

今、季節は秋から冬に向おうとしている。

何故自分は。

自分の目は。

『白』を捕えたのだ?

何故、自分の背後にいた生徒は、半袖カッターシャツの「夏服」を着ていたのだ、と。

「そう言えば、今日さ」

誰かがぽつり、と尋ねた。

「俺達、何人で同好会室に居たっけ……」

「何人って……。ここにいる皆だろ?」

A君が答える。皆はそれぞれに頷きながらも、「そう言われれば」と、首をかしげていた。

「なんか、今。人数が少なくないか?」

Kさんの口をついて出た言葉に、皆は一斉に頷いた。

「誰か、足りねぇよな」「人がいる気配はあったんだよ。同好会室に」「なんだよ。誰か東館に残ってんじゃねぇのか?」

ぼそぼそと小声で皆は言い合う。

言い合うが。

再び東館の同好会室に確認に戻ろうとする生徒はいなかった。

その後も、なんとなく東館で人がいる気配は感じていたものの。

姿を見たのは、その日だけだったという。

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