古来より「悪魔憑き」現象は世界各地で報告されている。本来、悪魔祓いは特別な訓練を受けたエクソシストによってのみ行われる。しかし、悪魔の標的は普通の人々なのだ。いつ誰が狙われてもおかしくはない。もし悪魔に狙われてしまったら、もし悪魔祓いを自分がしなくてはならない状況に陥ったならば、どうすればよいのか。「悪魔祓い」の現場に遭遇したという宗教・オカルトの専門家・神ノ國ヲに聞いた。
――いつ悪魔と遭遇しましたか?
(神ノ國ヲ)今までに二回だけ、悪魔祓いの現場に遭遇したことがあります。一度目は、観光で行った沖縄です。沖縄はユタの伝統もありますし、霊的なものに対する畏敬の強い土地です。米軍関係者の紹介で、たまたま現地教会の礼拝に参加していました。たしか1998年2月か3月でした。
その日は、来日中の有名牧師の講演会が予定されていました。礼拝が終わって昼頃、報告の時間になると、有名牧師が突然マイクを奪って、教会堂にいる人々に通訳を介して聞くんです。「皆さんの中に、耳が聞こえづらいとか、最近どうにも体調がおかしい人はいませんか、何かおかしい感じがします、その人のために祈りたいと思います」と。地方にある教会なんて、そりゃ老人ばかりですから、当然だろうと思いました。
何人かが手を上げて、牧師がその人のために祈る。これが繰り返されて最後の人になって、異変が起きました。少し腰が曲がった、小さなお婆さんが手を上げて「最近、耳の聞こえが悪くて」と言う。先ほどまでと同様に、皆が目を閉じて、牧師が祈り始めた直後、マイクが床に落ちる音がして、男の叫び声が礼拝堂に響きました。
驚いて目を開けると、あの小さなお婆さんが男の声で怒鳴り、牧師や教会を罵りながらイスを持ちあげて放り投げたんです。目の前の現実に理解が追いつきませんでした。
さらに驚いたのが、教会の人たちの対応です。数名の男性が暴れ喚くお婆さんを押さえて、他の信徒さんたちは、老婆を中心に円で囲って祈り始めたんです。しばらして「イエスの名によって命じる、退け!」と牧師が老婆の背中を叩くと、彼女は我に返ったようでした。まさしく「悪魔祓い」でした。
――二度目の遭遇では何がありましたか?
(神ノ國ヲ)二度目の遭遇は、2003年頃です。この日は調査で、中国地方のとある教会を訪ねていました。礼拝後、お茶を飲んでいると、教会員の婦人が緊迫した様子で「今すぐ二階に来てください」と言う。訝りながら階段を上がると、八畳程度の和室に案内されて、襖を開けると30代の知人女性が青白い顔で震えながら横たわっている。「え、救急車呼びます?」と婦人に聞くと「あの人に祈ってと伝えて」と私を名指して、この状態になったらしい。
困惑していると、横たわっている女性が「ァァァアアアアア!!!」と声を上げて、魚が飛び跳ねるように畳の上をのたうち回り出したんです。婦人が「祈って!」と叫んだので、とりあえず牧師たちが祈るように見よう見まねで祈ってみました。
「父と子と聖霊の主なる御神よ」と始めて、「主イエス・キリストの御名によって命じる、悪霊よ、出て行け!」と祈りました。すると女性は「ギェァアアア!」と人間とは思えない叫び声を上げて、より激しく暴れ出したんですよ。もう怖くてワケが分からない。とにかく彼女を押さえながら必死で神に祈りました。15分くらいだったかな、祈ると女性も落ちついたようでした。後で聞いた話ですが、この女性は自分の不信仰ゆえに、二カ月ほど悪霊に取り憑かれていると思い不安だったそうです。「いまは大丈夫です」とのことです。
なぜ牧師でもエクソシストでもない私が祈るために呼ばれたのかは分かりません。神経系または精神科の病気ではないかと医者の知人にも聞いてみましたが、未だにあの経験が何なのかは分かりません。しかし「悪魔祓い」と言わざるを得ないような現実でした。
――もし遭遇した場合、対処法は?
(神ノ國ヲ)実は、カトリック教会に伝わる「悪魔祓いの儀礼法」があります。それはイエス・キリスト自身による「悪魔の追い出し」をモデルにして4世紀頃には成立、ルネッサンス期までに整備され、17世紀には現在の形で確立したものです。この儀礼法によれば、まず悪魔が憑いている対象が人間か、場所かを明らかにします。次に、罪の赦しの請願、主の祈り、詩篇53篇を唱えて、悪魔を召喚し、福音書を朗読、憑依された人の手に触れ、悪魔祓いを宣言します。そして伝統的な祈りと世界信条、詩篇を唱え、大天使ミカエルへの祈りのあとに悪魔祓いの宣言などをして、祓魔の場所に聖水を撒いて完了します。
これらの手順は、「我、それゆえあらゆる汚れた霊、めいめいの悪魔、サタンの各部に命ず」で始まる「悪魔への第二の命令」と呼ばれる祈り以外は、厳密なものではないそうです。しかし、通常は、司教の特別な許可を得た聖職者が最低でも4人以上のチームで行うので、一般人には不可能です。だから、危険を感じたら専門家のもとへ行くのが最も良いのです。私が無事だったのは偶然に過ぎません。そもそも遭遇した二件とも「悪魔憑き」の理由が不明なのです。さらに日本人のほとんどがキリスト教徒ではありません。つまり、全員が不信仰である以上、いつ誰がどこで狙われてもおかしくない。我々、一般人には為す術などないのです。
神ノ國ヲ
学術論文からオカルト記事まで。
京都大学の博士課程に所属中。